今回から、「フィトンチッド講座」と題して、フィトンチッドに関する情報を発信していきます。第1回は『フィトンチッドの語源』です。
「フィトンチッド」という言葉をご存知でしょうか? 知らない人が多いと思います。この言葉にどれくらい知名度があるのでしょうか。Googleトレンドで調べる限り、残念ながら、それほど話題になっていないようです。
それでは、フィトンチッドの説明に入りましょう。
フィトンチッドは、ロシアのトーキン博士が命名
樹木は人間のように足を持たず、土に根ざして生きています。だから、外敵からの攻撃や刺激を受けても逃げることができないのです。彼らは様々な外敵から身を守るために、フィトンチッドを作り出し、発散することで、身を守っているのです。
このように「高等植物が傷つけられると、他の生物を殺す物質を発散する現象」を、1930年頃に発見したのが、旧ソ連(ロシア)のB.P.トーキン博士です。トーキン博士は発生学の研究者で、モスクワ動物園実験生物研究所に在職していた頃に、フィトンチッド現象を発見しました。
フィトンチッドは、トーキン博士によるロシア語の造語です。「フィトン」は「植物」を意味し、「チッド」は「〜を殺す」という意味です。
ロシア語の表記
ロシア語でフィトンチッドは「фитонцид」と表記します。フィトンが「фитон」、チッドが「цид」です。なんとなく読めるような、読めないような。ちなみに、ロシア語のキリル文字「ф(エフ)」は、直径を表すギリシア文字の「φ(ファイ)」に似ていますが、ギリシア文字が語源のようです。
そして、英語の「phyto(ファイト)」は「植物の」という意味があります。昨今、「ファイトケミカル」という言葉を目にするようになりましたが、広義ではファイトケミカルもフィトンチッドの一種と考えられるのではないでしょうか。健康食を売るためのの売り文句として、ファイトケミカルという言葉を流行らせようとしているのかもしれませんね。
「フィトン」と「ファイト」は同じ意味
このように「フィト〜」「ファイト〜」「フィトン〜」から始まる言葉は、植物性の何かである可能性が高いです。いくつか挙げてみましょう。
- phytoncide(フィトンチッド)……植物が放出するテルペン類等の揮発性物質
- phytochemical(ファイトケミカル)……植物に含まれる化学成分。フィトケミカルとも。
- phytoalexin(ファイトアレキシン)……植物が生産する攻撃物質
- phytohormone(ファイトホルモン)……植物ホルモン
- phytotoxin(ファイトトキシン)……植物毒素
- phyto-estrogen(フィトエストロゲン)……イソフラボンなどの植物エストロゲン
- phytotherapy(フィトテラピー)……ハーブを治療や美容に利用する方法の総称。ハーバルバスやアロマセラピーなどのこと。
いつだったか、テレビ番組『チコちゃんに叱られる』で「森の香りは、殺しの香り」と放送されていましたが、インパクト重視の表現だと思いました。テレビなので仕方がないのですが、メディアは刺激的な言葉を使おうとするあまり、本質を見失うことが往々にしてあります。
フィトンチッドは、たしかに植物の天敵である微生物や小さな虫を殺すことがありますが、植物がいなければ、人や動物は生きていけないことを忘れてはいけません。人に害を与える植物など、全体からするとごくごく一部です。
森は地球の空気を綺麗にし、根を張ることで大地を守り、多様な生命を育んでいます。私たちにとって「森の香りは、癒しの香り」であり、「生命の香り」でもあると思うのです。
「フィトンチッド講座」は少なくとも10回は連載する予定です。植物の研究一筋30年以上のアイ・ジャパン独自の見解や知識を、余すことなくご紹介していきますので、ぜひ参考にしてみてくださいね。
参考:「フィトンチッド普及センター」資料(監修:谷田貝光克先生)